刑事法

相当因果関係

実行行為と因果関係(問題設定)

 ある犯罪の実行行為について、第三者の行為が介入した場合、実行犯の実行行為と被害者に発生した犯罪結果との間に因果関係が認められるかが問題となることがあります。

因果関係の基本的な考え方

 因果関係が認められるためには、「あれなければこれなし」の条件関係があれば足りるとする条件説がありますが、因果関係が認められる行為が無限に広がるとの疑問が持たれています。

 そのため、刑法の通説は、因果関係の判断の際には、条件関係に加えて、その行為から結果が発生することが経験的、一般的にみても相当であるという因果関係の相当性も必要であるとしています。(相当因果関係説)。

 相当因果関係説の中には、相当性の判断に必要な基礎事情について、次の3つの見解があります。

①行為者が認識し予見した事情と認識予見することができた事情を基礎とする主観説

②行為当時存在した全事情及び行為後に生じた客観的に予見可能な事情を基礎とする客観説

③行為当時一般人が認識・予見可能であった事情及び行為者が特に認識・予見していた事情を基礎とする折衷説

第三者の過失が介在した場合

 犯罪の実行者の実行行為の後に、第三者の過失によって犯罪が成立した場合、その介在行為が一般人が認識・予見することは困難であったとすれば、その第三者の過失行為が犯罪を実現したものと評価することになり、実行者の行為と被害者に発生した犯罪結果との間に相当因果関係はないことになります。

異常な事態が介在した場合

 では、希有で異常な事態が介入して結果が発生した事例の場合、必ず直ちに相当因果関係は否定されるのでしょうか。

 行為後の因果経過及び結果発生のさまざまな態様がありますが、個々の具体的な介在事情を仮にとり除いた場合にも、犯罪は成立したかどうかの判断はかなり難しい部分があります。

 行為後の介在事情における判例を参考にみてみると、

①被告人の行為の結果への寄与度が大きく、介在事情の結果への影響が相対的に低い場合に因果関係を認めたもの(大阪南港事件)

②介在事情と相まって結果が生じたケースにつき、被告人の行為が危険性を有していたことと、介在事情が被告人の行為から誘発されて生じたことを理由として因果関係を肯定したもの(夜間潜水訓練事件)

③介在事情が直接的原因となって結果を発生させたケースについて、被告人の行為を起点とする因果の流れの相当性・通常性を理由として因果関係を肯定したもの(高速道路侵入事件)

 という大きく分けて3つに分類することができます。

 つまり、

①実行行為の有する危険性(結果発生力)の大小

②介在事情の異常性(および実行行為との結びつき)の大小

③介在事情の結果への寄与の大小を総合して、行為が一定程度の重大さで結果発生に寄与している限りで

 判例は、因果関係を肯定していると考えられます。

 実行行為自体からは被害者の生命の危険は生じていないこと、介在事情である第三者の行為が実行犯の行為によって誘発されたものではない異常なものであること、第三者の行為の結果への寄与度が大きいと言うことになれば、実行者の行為と被害者に発生した犯罪結果との間に相当因果関係はないということになります。

共犯関係ある場合の因果関係

 実行犯と首謀者が、犯罪について共謀をし、実行犯が実行行為を行った場合、実行行為を行っていない首謀者は、どういった理論で責任を問われるのか問題となります。

 共謀で犯罪を犯す場合、犯行までの役割の実質的重要性や犯罪によって生じる利益の帰属等を前提にすると、自己の犯罪として共謀していることが認められる場合は、単なる幇助犯ではなく共謀共同正犯とされています。

 なぜ、共謀して犯罪を実行した者(共同正犯者)に一部実行全部責任の効果が生じるかというと、共謀者全員の間では、物理的共同とともに共同正犯者相互に教唆ないし心理的幇助を行って心理的影響を及ぼし合い、結果発生の蓋然性を高めているから、一部の加担でも全部責任を負わせることができるのです。

 また、共犯の処罰根拠の理論からみても、正犯によって起こされた構成要件に該当する結果発生に対して間接的にせよ因果関係を有するような寄与をしたことがあるから処罰されるということになります(因果的共犯論)。

 そうすると、共同共謀正犯者(共犯者)は、自己の行為と因果関係を有する結果については、他の共犯者の行為についても罪を負うべきことになるのですが、自らの加功によって作り出された危険の実現を防止すれば、共犯関係からの離脱を認めて、その後の結果の責任は問われないと考えられる。

 実行犯が実行行為に及ぶ前に共同実行の意思の放棄を表明している場合、実行犯が行った行為の結果責任を、残った首謀者に負わせるべきかどうか、つまり、共犯関係から離脱を実行者に認めて結果責任を免れさせてやるか否かの要件は、因果的な貢献(物理的・心理的な因果関係)を切断、除去したことになります。

 すなわち、

①離脱の意思表明をし、他の共犯者が了承したこと

②既に結果発生の危険を作り出している場合は、それを除去して因果性を遮断したこと

 が必要になります。

 例えば、「やっぱり、俺はやめるわ。」と離脱の意思を表明しているものの、一方的にその離脱の意思表示のメールを送ったのみであり、犯罪に役立つ情報を与えたり、犯罪遂行を容易にする道具を用意したままである場合などは、共犯関係からの離脱は認められず、実行者にも罪責を問えることになります。