法律

国権の最高機関の国会とは

立法機関たる国会とは

 憲法は、国会は国の「唯一の立法機関」(41条)と定められています。

 憲法上の文言である「唯一」や「立法」という文言は、どのような意味があるのでしょうか。

 まず、「立法」という意味については、国の法律というものは、せいぜい国会以外の機関が「法律」の形式で作成することだけを禁止していると考え、「法律」という形式でさえ作らなければ、国会以外の機関でも自由に法規範を作れるとする考えと、特定の意味のある内容を含む法的な規範を作成するのは国会という機関でしか作れず、形式上は「法律」との表現でなくても、実質的に解釈すれば、法律であるとされるものは国会でしか作れないとする考えがあります。

 現在は、実質的意味の立法が現代憲法上では妥当と考えられています。

一般的抽象的な法規範

 「立法」という概念が、実質的意味のあるものだとした場合、法律の内容面は、国民の権利・自由を直接に制限し、義務を課す最低限の意味さえあればいいとの考えも以前はありました。

 しかし、民主主義の進展により、民主的な議会で立法権が行使される現行では、法律の内容面を最小限に考えるのは、国民の権利の保護には狭いと考えられてきたため、広い枠組みで捉えるために、不特定多数の人に対して、不特定多数の場合に適用される一般的で抽象的な法規範であるとされています。

 そうすることにより、法律の平等な適用が保障され、国民の予測可能性を高め、内閣への民主的なコントロールも強化できるとされています。

唯一の立法機関の意味

 では、国会が国の「唯一」の立法機関とは、どういう意味なのでしょうか。

 簡単に言えば、実質的意味の立法は、国会だけが作ることができ、「常に国会が立法をする中心に位置する原則」と「国会が常に単独で立法できる原則」の2つの原則があるとされています。

国会中心立法の原則

 前者は「国会中心立法の原則」と言われ、国の行う立法は、憲法に特別の定め(58条2項、77条1項)がある場合を除き、常に、国会を通して立法しなくてはいけないことを言います。

 そうすると、憲法73条6号但書にある、罰則事項の内容を内閣の政令に委任する場合を除いては、行政機関へ立法の委任そのものを委任することはできません。

 しかし、積極的な施策で社会や国民の利益の向上に向け国家の任務は増大しているので、国会だけでは細部な政策を決めていくことは至難の業です。

 そのため、立法事項を委任することもある程度は条理上認められると解されています。

 ただし、全くの白紙委任は許さるのではなく、個別的・具体的に委任事項を決めて委任するのであれば、実質的意味の立法を命令で定めることは可能であると考えらます。

 判例(最大判昭和49年11月6日)も、国家公務員法102条1項が懲戒処分と刑罰の対象となる政治的行為を人事院規則14-7に委任していることにつき、憲法に違反しないと判断しています。

国会単独立法の原則

 「国会単独立法の原則」とは、国会の立法は、国会以外の機関の関与がなくても、国会の議決のみで成立することをいいます。

 明治憲法は、天皇に議会が議決した法律案を確定的に成立させる権能を認めていましたが、日本国憲法はこれを認めず、国会の議決のみで法律の成立を定めています(59条1項)。

 ただし、地方特別法については、その地方団体の住民投票が立法機関の議決とは別に憲法上要求されており、憲法上の例外になっています(95条)。

 国会単独立法の原則と関連して、内閣が法律の発案権を有すること(内閣法5条)が単独立法権を侵害しているか問題となります。

 憲法72条で内閣に認められた「議案」の提案権には文言上当然に法律も含まれると解されていること、法律の発案権は国会議員にもあり、閣僚の大半は国会議員であること(68条1項但書)、国会は法律案を自由に修正・否決できること、議院内閣制の下では内閣と議会の協働が要請されることなどからすれば、国会単独立法の例外となるものではありません。

違憲判決の効力について

 裁判所の違憲審査権の行使により、唯一の立法機関が定めた国会の法律の効力が違憲とされる場合には、唯一の立法機関であるとすることと矛盾はしないのでしょうか。

 裁判所は、事件を解決するのに必要不可欠範囲で、司法権の行使に付随する限りで違憲審査権の行使をしています(憲法81条)。

 最高裁判所が、一般的な法令について違憲判決をした場合は、その法律の効力はどうなるのでしょうか。

 学説上は、違憲とされた法律は、①議会による廃止の手続なしに存在を失い、客観的に無効となるとするもの(一般的効力説)、②当該事件に限って法律の適用が排除されるとするもの(個別的効力説)、③法律の定めるところに任されているとする見解(法律委任説)があります。

 一般的効力説は、合憲性の最終判断権をもつ最高裁判所によって違憲と判断された以上は、その法律は当然無効であるべきであることや、個別的な効力しか認めないとすると、ある場合には違憲無効となり、他の場合には有効となることがあるため、法的安定性・予見性を著しく欠き、また、不公平を生じさせ、法の下の平等にも反すること等を理由としています。

 個別的効力説は、日本の違憲審査制が付随的違憲審査制である以上、裁判所の違憲審査権も、当該事件の解決に必要な限りにおいてのみ行使することができ、違憲判決の効力も当該事件に限って及ぶこと、法律を一般的に無効とすることは、一種の消極的な立法をすることになり、国会が唯一の立法機関であること(41条)に矛盾する可能性があることを理由としています。

 ただ、個別的効力説であっても、他の国家機関には、最高裁判所の違憲判決を十分尊重することが要求されると考えられることから、憲法は、違憲とされた法律について、国会での速やかな改廃や、行政が執行を控えることが期待されることになります。法律委任説は、憲法上は、違憲判決の効力を一義的に定めていないことから、法律の定めるところに委ねられているとしています。