憲法・行政

生存権とは

生存権の意義

憲法25条1項は,「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」として、日本国民の生存権を保障しています。

プライバシー権についてプライバシー権の保障  憲法にはプライバシーの権利についての規定は存在しません。  しかし、憲法制定後の社会の変化に伴って、当初...

 憲法25条2項は、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と定めています。

 憲法25条1項と2項の関係は、1項は生存権保障の目的又は理念を定めたものであり、2項はその達成のための国の責務を定めたものであるとされています。

堀木訴訟

 いわゆる堀木訴訟の控訴審判決(大阪高裁判決:昭和50年11月10日)は、2項が国が事前の積極的防貧施策をなすべき努力義務を負うことを宣言したもので、1項は、2項の防貧施策の実施にもかかわらず、なお落ちこぼれた者に対し、国が事後的・補足的かつ個別的な救貧施策をなすべき責務を負うことを宣言したものであるとして、1項には、広範な立法裁量が認められるとしました。

 しかし、最高裁はこのような考え方を採用していません。

生存権の法的性質

 生存権には、国民が自ら健康で文化的な最低限度の生活を維持する自由を有し、国家はそれを妨げてはならないという自由権的な側面と、国民が国家に対して健康で文化的な最低限度の生活を実現するよう求める社会権的側面とがあります。

 生存権をはじめとする社会権は、社会福祉国家の理念に基づいて、社会的・経済的弱者を保護して、実質的な平等を実現するために保障される人権で、すべての国民が人間的な生活を営むことを保障するものです。

 それらの生存権を具体化した法律としては、生活保護法、国民健康保険法、厚生年金保険法、国民年金法、介護保険法、児童福祉法、身体障害者福祉法、老人福祉法、児童扶養手当法、児童手当法、国民年金法等があります。

生存権の社会権的側面

 生存権の社会権的側面の法的性格については、いろんな考え方があります。

プログラム規定説

 憲法25条は、国に対して、国民の生存を確保すべき政治的・道義的義務を課したにとどまり、個々の国民に対して具体的権利を保障したものではないとする見解があります。

 この見解に対しては、①憲法25条1項が生存権を「国民」の「権利」として規定していることと矛盾し、生存権の保障が台無しになるといった批判がされています。

抽象的権利説

 憲法25条は、国に対して、立法・予算を通じて生存権を実現すべき法的義務を課したもので、これを具体化する法律によって初めて具体的な権利となるとする見解があります。

 この見解は、憲法25条を直接の根拠として、国の立法や行政の不作為が違憲であるとすることはできませんが、具体化している法律があれば、憲法25条違反を主張することができるとされています。

 憲法自体が明文で「権利」と規定してこと、生存権の内容は抽象的なので、どのような手段で保障を実質化するかは、政治による裁量の余地があること等を根拠として、法的権利性を認めて、具体的な立法により権利が付与されることになります。

具体的権利説

 憲法25条は、個々の国民に対して具体的権利を付与したものであるとする見解です。

 この見解は、憲法25条自体から具体的権利性を認め、憲法25条を直接の根拠として、国の不作為の違憲性を争うことができます。

 この見解では、政治に対する過度の干渉となり、権力分立が侵されるおそれがあるといった批判があります。

最高裁判例

 生存権に関して、最高裁の朝日訴訟判決(最高裁判例:昭和42年5月24日)があります。

 この判例のポイントは、憲法25条は、国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接国民に対して具体的権利を付与したものではなく、具体的権利性は、憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によってはじめて与えられているとした上で、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの判断は原則として政治の裁量に委ねられており、現実の生活条件を無視して著しく低い基準が設定されているなど、憲法及び生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によって与えられた裁量権を逸脱・濫用した場合に限って、違法な行為として裁判の対象になるとしました。

環境権

 最近は、生存権を発展させた、環境権というものも提唱されています。

 環境権とは、健康で快適な生活を維持するために、良い環境での生活で、良い環境を支配する権利とされています。

 環境権は、人格権としての性格を有することから、憲法13条後段の幸福追求権としての新しい人権の一環として考えることができますが、環境権を具体化し、実現するためには、国による積極的な環境保全又は改善のための施策が必要なため、社会権的側面では、憲法25条により、生存権の一内容として保障されていると考えられます。