民事上の信頼関係
契約を交わした者同士は、お互いの合意でした契約の内容や条項や約款によって縛られることになるのは誰でもご存じであると思います。
もし締結した契約に違反していますと、相手方に損害を賠償したり違約金を支払ったりすることが必要になり、大きな責任を相手に対して負うことになります。
そのため、誰もが契約はきちんと順守しようという意識になります。
しかし、正式な契約の締結には未だ至ってなかったり、契約はしたが契約内容中に盛り込まれていなかった場合、完全な契約ではないとして、無視することはできるのでしょうか。
そもそも、お互いの状況や世間一般の常識に即して考えてみると、契約当事者が契約に向けて接触し、信頼関係を構築しつつある状況では、契約前に生じた損害についても、ある程度の請求ができないと不合理であると考えられます。
信義則とは
上記のような、契約締結前のグレーな段階について、民法1条2項では、信義誠実の原則を規定しています。
その原則は、社会共同生活の一員として、互いに相手の信頼を裏切らないように誠実をもって行動することを要求しており、現代社会でもそのルールが一般的なものとして受け入れられています。
信義則の類型
では、信義誠実の原則から導かれる類型には、どういったものがあるのでしょか。
理論上は、大きく分けて、次の3つがあるとされています。
①事情変更の原則→契約の前提となっていた前提条件や環境が変化した場合に、契約内容をその環境に合わせるために、契約の改定または解除が認められる法理です。
②付随義務→契約では明確に定められてはいないが、契約に付随するものとして契約内容に取り込まれ、その義務違反に対しては損害賠償責任が認められる場合に使われる法理です。
③忠実義務→他人から財産管理や事務処理を委託され、そのための一定の権限を与えられている者は、自分のためだけではなく、他人のために、持っている権限を行使する義務をいいます。委託者に損害を与えないように注意を尽くす善管注意義務と、事務を処理する者が自分や第三者の利益を図ってはならないことを内容とする忠実義務があります。
事情変更禁止の原則の適用要件
信義則の類型のうち、事情変更の原則を適用するためには、次の要件が必要になります。
①契約成立当時に当事者が基礎とした事情に変化があったこと
②事情の変更が契約締結当時、当事者に予見できなかったこと
③基礎事情の変化が当事者の責任によるものではないこと
④事情が変わった結果、当初の契約を維持することが不当と認められること
事情変更禁止の原則の効果
①当事者が締結した契約を解除する権利が発生します。
②契約の内容そのものを変更できる権利が発生します。