雇用関係のトラブルの発生
勤務先から解雇された場合、勤務先が給料や退職金を支払ってくれない場合には、裁判所の労働審判手続を利用して、労働関係についてのトラブルを解決することができます。
労働審判手続とは
裁判官である労働審判官と労働関係の専門家である労働審判員2名で組織されている労働審判委員会というメンバーで、個別労働紛争を、原則3回以内の期日で審理し、円満調停ができないかを話し合い、調停がまとまらなければ、事案の実情に応じた柔軟な解決を図るための判断(労働審判)を行うという紛争を解決するための制度です。
仮に労働審判に対して納得がいかず不服がある場合には、異議申立てがあれば、訴訟に移行します。
労働審判手続の特徴
①個別の労働紛争が対象
事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルの解決に利用できます。
②労働関係の専門家が関与
雇用関係の実情や労使慣行等に関する詳しい知識と豊富な経験を持つ労働審判員が、中立かつ公正な立場で、審理・判断に加わります。
③3回以内の期日で決着
原則として3回以内の期日で審理を終えます。したがって、トラブルの内容が複雑で、限られた期日の中で審理を終えることが難しそうな事案にはなじみません。
④事案の実情に即した柔軟な解決
円満調停を常に目指し、調停による解決に至らない場合には、審理の結果、認められた当事者間の権利関係と手続に中で現れた諸事情を踏まえ、事案の実情に即した判断(労働審判)を行い、柔軟な解決を図ります。
⑤異議申立て等で訴訟移行
労働審判に対する異議申立てにより、労働審判が失効した場合や、労働審判委員会が、労働審判を行うことが不適当であると判断し、労働審判事件を終了させた場合等は、訴訟へ移行します。
利用するにあたっての留意点
3回以内の期日で集中して審理を行うためには、当事者が、早期に的確な主張・立証を行うことが重要です。
そのためには、当事者は、必要に応じて、法律の専門家である弁護士に相談することが望ましいです。
労働紛争の解決方法には、労働審判手続以外にも様々な手続があります。
それぞれの手続の特徴と事案の実情等を踏まえ、どの手続を利用するのが良いのかを十分に検討した上で手続を選択してください。
申立てをする裁判所
①相手方の住所・居所・営業所・事務所の所在地を管轄する地方裁判所本庁
②労働者が現に就業もしくは最後に終業した営業所の所在地を管轄する地方裁判所本庁
③当該地方裁判所を合意管轄とする合意書面があること。
※ただし、地方裁判所の本庁以外の東京地裁立川支部・福岡地裁小倉支部・静岡地裁浜松支部・長野地裁松本支部・広島地裁福山支部においても、労働審判手続が行えるようになっています。
申立に必要なもの
申立書の提出とともに必要なものとしては、次のものがあります。
①収入印紙…労働審判を求める事項の価額に応じた金額が必要になる。たとえば、求める価額が100万円であれば、5000円の収入印紙が必要になります。
②郵便切手…書類や証拠を相手方に事前に送付する場合に、裁判所の決定を送付するのに必要な費用となります。
③申立書写し(相手方の数+3通)
④証拠書類の写し…予想される争点についての証拠書類がある場合には、証拠書類の写しの提出が必要です(相手方の数+3通)。
※雇用関係のトラブルの内容に応じて、次の書類を証拠として準備しておくことが有用です。→雇用契約書・就業規則・給与明細・源泉徴収票・求人広告・出勤簿・タイムカード・退職証明書・解雇通知書・解雇理由書
⑤委任状…弁護士を立てる場合には、弁護士に委任したことを証する委任状が必要となる
⑥資格証明書…相手方が法人の場合には資格証明書が必要となる。(登記事項証明書)
調停成立
労働審判手続の中で、当事者が話し合いの結果、合意が成立し、裁判所書記官がその合意内容を調書に記載したときは、調停が成立したものとして、事件の手続は終了します。調停調書は、当事者からの申請があれば、特別送達郵便で当事者に送付されます。
審判の言渡し
当事者の話し合いによる調停では解決できない時は、労働審判委員会は、審理の結果で認められた当事者の権利関係や経過を総合的に判断して、事案の解決のために、当事者の目の前で審判を言い渡すことができます。
労働審判手続の期日に当事者全員が出頭しているときは、口頭で審判を告知する方法で行われ、主文と理由を裁判所書記官が調書に記載したものが審判書に代わる書面とされ、当事者の申請があれば、特別送達郵便で当事者に送付されます。
不服なので異議を申立て
労働審判委員会が言い渡した審判の内容に不服がある場合には、審判の告知を受けた日(労働審判手続期日で言い渡された場合)及び審判の内容を記載した書面の送達を受けた日から2週間以内に異議の申立てをすることができます。
異議の申立てがあれば、労働審判は効力を失い、通常の訴訟手続に移行し、裁判手続が続いていくことになります。
労働審判事件の終了
労働審判委員会は、事案の性質に照らして、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判手続を終了させることができます。
終了した場合には、労働審判の申立ては、申立てた時に、その裁判所に訴えの提起があったものとみなされて、訴訟手続で審理をすることになります。
適当でないと認められる場合として、そもそも、申立書が相手方に届かない場合、3回以上の回数が必要な場合、当事者や争点が多数の場合、複雑困難な場合などです
その他
労働審判を申し立てるにあたり、重要なポイントとして、労働契約の存否や労働関係に関する事項について、労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争であることが必要で、個人的な損害賠償や労働契約の問題でない者を対象とすることはできません。
裁判所に申立てた後は、裁判官及び書記官が申立書の内容をチェックし、問題が無ければ、期日を指定して、相手方を呼出し、労働審判員2名を選定して、労働審判期日を迎えることになります。
労働審判手続の期日は、原則として非公開です。
ただし、労働審判委員会は、相当と認める者の傍聴を許可することができます。
労働審判手続のおいても、裁判所の電話会議システムやテレビ会議システムを利用して手続を進めることはできますが、労働審判手続は当事者が同じテーブルでお互い接して手続をすすめることが望ましいことから、当事者の一方が遠隔地で出頭が困難な場合や、簡単な確認をするだけの場合などに限定して扱われている。
当事者や法的な利害があることを疎明した第三者は、労働審判事件の記録の閲覧・謄写を請求することができます。
労働審判以外の雇用関係トラブル解決
労働審判以外にも、裁判所の手続として、次のようなものがあります。
☆民事調停手続
裁判官と一般国民から選ばれた調停委員2名以上が調停員会を構成し、簡易な事案から複雑な事案まで実情に応じた話し合いによる解決を図る手続です。
双方が話し合って解決をすることを原則としています。相手が話し合いに応じない、合意に至らないときは、手続が打ち切られることがあります。
☆民事訴訟手続
裁判官が双方の主張を聴いて、証拠調べを実施し、最終的に判決によって解決を図る手続です。
厳格な手続の下、主張と証拠に基づいて権利関係を明らかにしていくために、当事者は、証拠の提出と主張を的確に行う必要があり、法律の専門家に相談や依頼をするのが望ましいです。
☆少額訴訟手続
原則として1回の審理で判決がされる特別な訴訟手続になります。60万円以下の金銭の支払を求める場合に利用することができます。
比較的単純な事案の解決に有用な手続です。相手方が少額訴訟に反対した場合には、通常の訴訟手続に移行します。