移送とは
裁判所に事件が係属している場合、裁判所の裁量もしくは当事者の申し立てにより、他の裁判所に事件を係属させることを言います。
事件が移送されることにより、担当の裁判所が変わりますし、事件の記録一式についても移送先の裁判所に移行して、その裁判所で審理がされることになります。
移送するか否かは、当事者の申立てや裁判所の職権により検討が開始されますが、移送すべきか否かについては、裁判所が最終的に判断することになります。
移送の種類
事件の移送は、自由に認められるものではなく、次のような移送の根拠となる民事訴訟法上の移送事項に該当することが必要です。
裁判所は、移送の根拠を踏まえて移送の是非を判断することになります。
管轄違いに基づく移送(16条)
遅滞を避けるための移送(17条)
簡易裁判所の裁量移送(18条)
同意移送(19条1項)
不動産に関する必要的移送(19条2項)
各移送の要件について、次にまとめてみました。
管轄違いによる移送(16条)
違った管轄に申し立てられた訴訟については、管轄違いとして、原則的には管轄権がある裁判所に必ず移送しなければなりません(必要的移送といいます。)。
ただし、本来は簡易裁判所に申し立てられるべきだった訴訟が、何らかの理由で地方裁判所に申し立てられている場合でも、地方裁判所が相当と認めた場合は、地方裁判所で事件を移送することなく審理することができます(民事訴訟法16条2項・このことを地方裁判所の事件の自庁処理と言います。)。
遅滞を避けるための移送(17条)
管轄がいくつも競合している場合に、第1審裁判所において適正な審理の実現と当事者の利益保護の観点から、「著しい遅滞を避けるために必要」な場合、「当事者間の衡平をはかるために必要」な場合などの要件があるときは、当事者の申立か、裁判所の裁量によって、事件を管轄権のある他の裁判所に移送することができます。
「著しい遅滞を避けるために必要」、「当事者間の衡平をはかるために必要」とは、抽象的な要件ですが、その要件を考慮する要素としては、当事者・証人・検証物の所在場所と当事者の所在地との遠近といった距離的要素や、当事者の身体的要素や経済的要素なども考慮されて要件が裁判所によって判断されることになります。
受訴裁判所が専属的管轄に属する場合には、移送をすることはできません。
簡易裁判所の裁量移送(18条)
専門的で複雑な事件が簡易裁判所に係属している場合に、比較的単純で一般市民が利用しやすく簡易な手続を行う簡易裁判所で審理を進めるよりも、専門的で複雑な事件を得意とする地方裁判所で審理をした方が、より審理がスムーズに進むと考えられる場合、簡易裁判所は事件を地方裁判所に移送できるとしています。
比較的いろんな事情や状況を考慮して簡易裁判所が移送を決定できるため、裁量移送とも言われています。
同意移送(19条1項)
第1審裁判所において、当事者からの申立てと相手方の同意がある場合には、裁判所は必ず移送しなければなりません。
ただし、移送することで訴訟が遅滞することが見込まれ場合や、被告が審理の中で弁論や申述した場合には、同意があっても移送することはできません(19条1項)。
不動産に関する訴訟の移送(19条2項)
簡易裁判所においては、訴額が140万円以下の不動産関係の訴訟において、被告が弁論手続において、弁論や法律的な主張をする前に地方裁判所への移送を申立てた場合は、裁判所は必ず地方裁判所に移送しなければなりません(19条2項)。
移送についての判断はどのようなものか。
移送決定が確定すると、訴え提起時にさかのぼって、移送先の裁判所に事件が係属していたとみなされます(22条2項)。
法律上の期間や、移送前の自白、証拠申出、証拠調べは、移送されても、従前の効力に影響は受けません。
ただ、移送前の裁判所に管轄が全くないのに審理した場合は、移送前の審理内容は無効とされているので、気を付ける必要があります。
移送決定と移送却下決定については、不服があれば即時抗告の申立てをして、決定内容を上級審で争うことができます(21条)。
移送で事件を受けた裁判所は、更にその事件を移送することはできません(22条)。
ただし、移送決定の確定後、別の事由が生じたことを理由として移送することは可能です。