法律

多重債務者の救済

多重債務者を救済する手続

 多重債務者を救済するための手続の代表は自己破産や免責ですが、それら以外の手段として、任意整理・特定調停・個人再生手続の制度があります。

 自己破産・免責は借金の支払いをすることなく、借金をチャラにして問題を解決する方法になります。

 一方で、任意整理、特定調停、個人再生は、債務を弁済することで問題を解決する方法になります。

任意整理について

 通称は債務整理と呼ばれている手続で、各債権者と債務者が返済額や返済方法について個別に交渉し、債権者と債務者間で合意を成立させ、債務者が合意に従って債権者に返済をすることにより解決する方法になります。

 任意整理を行う場合には、債権者に対して、債務者との間の当初取引からの取引経過を開示してもらい、利息制限法の利率によって引き直し計算を行い、残債務額を確定させて、その債務額についての返済方法を交渉し、まとまれば示談書を作成して返済を行っていくというプロセスたどるものです。通常は将来発生する利息も発生させないことが通常ですので返済金も全額元本に組み入れられることになります。

 メリットとして、返済方法も可能な額に交渉でき、利息制限法に引き直した計算となるから債権額もカットされ早期に債務の完済ができ、裁判所も関与しないので簡易迅速に問題解決を図ることができます。

 ただし、合意ができないと任意整理は進まないというデメリットがあります。

特定調停について

 特定調停は、支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するために民事調停法の特例として特定調停法という法律で定められています。

 経済的に破たんするおそれのある個人や法人が、すべての債権者との間で債務の支払い等の調整を求める申し立てを簡易裁判所に申し立てて、裁判所が選任した調停委員を交え、各債権者と支払額や支払条件、担保関係の変更について話し合いでの解決を目指すものです。

 裁判所としては、裁判官と調停委員で構成する調停委員会を組織して、交渉の場を仕切っていくことになります。

 当事者は、調停委員会に対しては、債権債務の内容や担保関係を明らかにする義務を負っていることから、債権者が有する取引履歴や取引経過も明らかになり、利息制限法による引き直し計算による債務の圧縮ができるメリットがあります。

 特定調停を申し立てた後は、貸金業者からの架電や訪問などの取引行為は停止されるのが慣例です。

 ただし、これは事実上のものですので、必ず貸金業者による行為がやむとは限りません。

 各債権者との間で調停が成立すると、調停条項を記載した調停調書が作成され、それに従って返済を進めて行くことになりますが、返済が滞ると、債権者がその調停調書を利用して、強制執行に踏み切ることがあります。

破産・免責手続について

 多額の負債を抱えて支払不能の状態に陥った債務者が地方裁判所に破産手続の開始を申立て、債務者が有する財産を破産管財人が処分して得たものを債権者に平等に配当して、それでも債務が残っている場合には、法的にチャラにする免責という強制的な手段によって、多重債務の重荷から債務者を開放する救済手段です。

 債務者の債権者への弁済は全てストップすることができ、免責手続によって法的に支払責任が無いことが確定しますが、財産が幾分ある場合には、それらの財産は取り上げられ、強制的に換価されることになります。

 債務者によっては、全く財産がない者もいるため、そういった者については、破産管財人すら選任されず、財産を換価して債権者に配当していく手続も取らず、破産開始決定と当時に破産手続を終了する同時廃止という制度が設けられています。その場合には破産の清算手続きが省略され、すぐに免責手続へ移行します。

 ただ、気をつけなくてはならないのは、同時廃止の場合、管財人を選任するまでもない若干の財産を有する場合には、同時廃止の決定を出す条件として、いくらかのお金の積み立てや若干の財産を換価して債権者への弁済を裁判所から促される場合もあります。

 また、免責許可の前提として、免責不許可に該当しないことが免責を受けるための条件となりますが、その一定の事由があるために債務を法的にチャラにする免責が許可されないこともあり、破産手続を行う前後で自己の資産関係の管理に気を付ける必要があります。

個人再生手続について

破産の原因たる事実の生じるおそれがある個人債務者または事業の継続に著しい支障がなく弁済できない個人債務者が、将来を見据え、継続して反復して収入を得る見込みがある場合で債務の総額が5000万円を超えない場合に、債務の返済額や条件を有利に変更することを内容とする再生計画の認可を裁判所に求めて、認可された計画をもとに返済をする手続です。

 個人再生手続きでは、負債額の10%~20%または、可処分所得の2年分くらいの金額が弁済に必要とされる基本額となり、それ以外の債務はカットされることになり、債権のカット率が特定調停や任意整理よりも大きく債務者にはメリットがとても大きい手続になります。

 また、個人再生のうち、小規模個人再生の類型として申立をする場合には、再生計画についての債権者の同意は、すべての債権者の同意は不要となり、債権者の過半数の同意でよいことになります(しかも、消極的同意)。

 さらに、給与所得者等再生の類型として申立てをする場合には、債権者の同意すら必要とされていません。

 5000万円以内の救済であれば再生手続は、メリットの大きい手続です。

まとめ

 任意整理、特定調停、個人再生は、債務者が抱えている負債の支払条件について、債権者との間で合意し、債務者にとって十分に支払い可能な状況をつくりだし、債務を返済することにより解決する手段であり、返済原資が返済に充てられるだけの収入の確保ができることが必要となります。

 反対に、債務の返済を完全になくする破産手続は、負債の返済の原資がなく、返済が到底困難で、負債を抱えていては新たな生活ができない極限の場合に活用されるべき手続であると考えられます。