民法・民事訴訟

取得時効と登記という問題

時効によって所有権を取得するには!

 「所有の意思をもって」、「平穏かつ公然と」、「他人の物」を一定期間「占有した者」は、所有権の時効取得ができ、占有開始時に善意・無過失であれば「10年間」の占有を(民法162条2項)、それ以外の場合には「20年間」の占有を要する(同条1項)。

 物を占有しているということは、その者は、「所有の意思を持って、善意・平穏・公然に占有していると推定」されます(民法186条1項)。

 また、「所有の意思」は、占有取得の原因たる事実によって外形的・客観的に定められるため(最高裁判例:昭和45年6月18日)、所有の意思の有無を主観面から考える必要はありません。

 占有者が亡くなり相続が発生した場合、その相続人は、自己の占有期間だけを主張することも、自己の占有期間と前占有者の占有期間を併せて主張できます(民法187条1項)。

 このことを占有の承継と言います。

 占有の承継は、売買などの特定承継に限らず、相続のような包括承継にも適用されます(最高裁判例:昭和37年5月18日)。

 前占有者の占有と併せて主張する場合は、前占有者による占有の瑕疵(所有権がないことを知っていたことなど)をも承継することになり(民法187条2項)、占有継続の期間に影響を与えることになります。

取得時効と登記

時効取得によって生じた物権変動(所有権移転)を第三者に対抗するためには、民法177条が規定するように、物権変動があった旨の登記が必要とされています。

 177条の「第三者」に対しては、登記が無ければ、時効取得した不動産の所有者であり、所有権取得の主張をすることはできません。

取得時効に登記は必要か

では、時効取得を第三者に対抗するために登記をする必要があるかどうかは、判例や学説が分かれています。 

 判例は、①元の所有者から時効取得した者は、時効取得を主張するには、登記は不要とされています(大審院判例:大正7年3月2日)。

 なぜなら、時効取得は、権利関係をチャラにして、まっさらな所有権を取得させるものですが、取得時効が完成すれば、ある者が所有権を新たに取得し、その反射として元所有者が所有権を失うことになり、新旧の所有者で所有権が移転するという関係と同じと考えられ、その場合にまで登記を要求しなくてもいいと考えられるからです。

時効が完成前に所有者が変わっていたら

時効取得者は、時効完成前にその不動産について所有権を取得した者に対しては、所有権取得を登記なくして対抗できます(最高裁判例:昭和41年11月22日)。

 時効取得者は、時効完成時の所有者から所有権を取得したのと同じ状況とみることが出来るからです。

時効が完成した後に所有者が変わっていたら

時効取得者は、時効完成後にその不動産について所有権を取得した者に対し、所有権取得には登記がないと対抗できないとされています(大審院判例:大正14年7月8日)。

 時効完成後は、不動産の所有権を取得した者と時効取得者が二重に譲渡された状況と類似し、その場合の優劣は登記の先後で決すべきとの考えからです。

好き勝手に時効期間の開始時点を動かす

時効取得者は、時効の起算点(開始時点)を、好き勝手な任意の時点にして選択することはできません(最判昭和35年7月27日)。

 任意の起算点を選択できるとすると、自己に有利な時点を選択して、常に登記なくして第三者に対抗できてしまうからです。

時効取得した後に、更に期間が経過した場合

時効取得後さらに取得時効に必要な期間を占有すれば、登記なくして第三者に対抗できます(最高裁判例:昭和36年7 月20日)。

 登記するのを忘れてしまったとしても、新たに時効期間が経過すれば、新所有者との関係では、振り出しに戻るからです。

とっても悪いやつ「背信的悪意者」という考え方

実際の登記の場面で、対抗できない第三者が出現した場合であっても、判例は、民法177条の「第三者」となるためには、登記の欠缺を主張するにつき、「正当の利益」を有することが必要とされています。

 つまり、正当な利益を有する者のみを第三者に限定していることになります(大審院判例:明治41年12月15日)。

 さらに、①物権変動の事実を知った上で、②その物権変動についての登記が無いことを主張し、自らが真の権利者であるとすることが信義誠実の原則に反すると民定された者(背信的悪意者)は、自由競争の範囲から逸脱した者として、177条の「第三者」として取り扱わないことにしています(最高裁判例:昭和40年12月21日)。