法律

国政調査権とは

国政調査権とは

 国会の各議院には国政調査権が認められている憲法62条は、衆議院と参議院の両議院が国政に関する調査を行うことができる旨を規定し、両議院に国政調査権を認めています。

 国政調査権を各議院が行使する場面で、どういった性質を有するものなのか、学説において、大きく2つの見解が主張されています。

①独立権能説
 国会が、「国権の最高機関」(憲法41条)であることを根拠として、国会を国権の統括機関として位置付け、国政調査権は、国権を統括するための独立の権能であるとる見解があります。

②補助的権能説
 国政調査権は、議院が保持する諸権能を実効的に行使するために認められた補助的権能であるとする見解があります。

③通説的な見解
 国会を国政の最高決定者の意味で最高機関であるとすることは、主権者である国民との関係で正当とはいいがたく、日本国憲法の権力分立主義からも適切ではないことから、憲法41条にいう「国権の最高機関」を国会が国権を統括する機関であることを意味すると解する独立権能説の立場に疑問があるため、国政調査権は、議院の補助的権能であると解されています。  

国政調査権も無制限ではない

 国政調査権については、補助的権能であるとの解釈が通説とされています。

 調査の目的は、立法、予算審議、行政監督など、議院の憲法上の権能を実効的に行使するためのものでなければなりません。

 調査の対象及び方法は、権力分立や基本的人権の尊重の観点から無制限ではなく、一定の制約があります。

国政調査権と裁判所がぶつかり合う場合

 国政調査権を裁判所に対して行使する場合に、司法権の独立との関係で問題となることがあります。

 裁判内容に対する批判的調査によって、裁判官の裁判活動が直接制約されるものではないとして、裁判内容をいつでも自由に調査及び批判することが可能であるとする絶対的許容説があります。

 一方で、確定判決後の裁判内容に対する調査であれば、裁判は終わっているため裁判官の裁判活動に直接影響を及ぼすものではないとして、自由に裁判内容を調査及び批判することが可能であるとする確定判決後許容説があります。

 しかし、司法権の独立の原則には、裁判官が、法律上、他の国家機関の指揮命令に服することを否定するだけではなく、裁判官が裁判をするにあたって、他の国家機関から事実上重大な影響を受けることを禁ずる趣旨も含まれると考えられており、絶対許容説は、裁判官が事実上重大な影響を受けるおそれがあり、確定判決後許容説は、他の事件を審理する場面で裁判官に見えない事実上の影響力を与えることになります。

 そこで、裁判内容に関する直接的な調査は、判決確定の前後を問わず、司法権の独立との関係から一切許されないと考えるのが相当であるようにも考えられます。

 ただ、国政調査権が、立法目的、行政監督の目的などの適正な目的で行使されている場合には、裁判所が審理するのと同じ事実について、裁判所と並行して調査を行うことは、司法権の独立との関係でも許容されると考えられています。  

国政調査権と検察がぶつかり合う場合

 検察庁は、行政権の一つの組織として行政権の内側に属するものですが、裁判と密接に関わる準司法的作用を有しており、裁判所に類似した独立性が確保されなければなりません。

 したがって、①起訴・不起訴について、検察権の行使に政治的圧力を加えることが目的と考えられる調査、②起訴事件に直接関係する事項や、公訴追行の内容を対象とする調査、③捜査の続行に重大な支障を及ぼすような方法による調査などは、違法ないし不当であると考えられます。

国政調査権と行政官庁との関係

 国の行政機関は、一般行政権を日ごろ行使して、行政運営を行っています。

 特に、行政機関の職員である国家公務員は、守秘義務が課せられていますが、この点、議院証言法においては、職務秘密として最終的に守秘できる事項は、「国家の重大な利益に悪影響を及ぼす」ものに限定されています。

 各行政官庁の職員と国政調査権の行使のために制定されている議院証言法との関係で、次のような調整が定められています。

①国会の議員や委員会や合同審査会は、公務員が職務上知り得た事実について、本人や行政庁から職務上の秘密であると申し立てられたときは、当該行政庁や監督庁の承認がなければ、証言や書類提出を求めることができないとされています(議院証言法5条1項)。

②当該行政庁や監督庁が承認をしないときは、理由の疎明が必要です(同条2項)。

③示された理由を受諾できない場合は、その議院や委員会や合同審査会は、さらにその証言や書類提出が国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣声明を要求することができます(同条3項)。

④要求後10日以内に内閣が声明を出さないときは、要求された証言や書類提出をしなければなりません(同条4項)。 

国政調査権の人権への影響

 国政調査権の行使に際しては、基本的人権を侵害するような手段や方法で行ってはならないのは当然です。

 例えば、思想の表明を強く迫って質問すること、強制的に居宅に立ち入って捜索すること、物を押収すること、調査対象者を逮捕することは認められないです。

国政調査権の余談

★国政調査の一部は、国会の各委員会に行わせることもできます。

★国政調査権の調査の方法として、証人を国会への出頭を要請することや国会で証言を求めること、書類の種類を問わず各機関や個人に書類の提出を求めることができます。これらの要求に対しては、議院証言法により、従わなければ、処罰されるおそれもあります。
ただし、証言については、正当な理由があれば拒絶することもできます。