民法・民事訴訟

留置権と同時履行の抗弁権の異同

留置権とは何か

 他人の所有物を、何らかの理由で自分が占有している場合に、その物に関して生じた債権をその所有者に対して持っているときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を自分の手元に留め置くことができる権利です(民法295条~同法302条)。

 この留置権は、物に関して生じた債権を有する占有者のために、債務が確実に履行されるようにすること、債権と債務者間が公平になるようにすること目的として法律が定めた担保権になります。

留置権の特徴

 留置権で担保している債権が、全額弁済されるまでは、その目的物の一部だけではなく全部について、権利を行使できる不可分性があります。

 留置する物に関する債権が存在しないのであれば、留置権も同じく存在しないという附従性があります。

 担保している債権を譲渡してしまうと、留置権もこれに伴って移転する随伴性があります。

 しかし、留置物を売却した場合や、消滅した場合などにより、売買代金や保険金が生じた場合には、留置権には優先して他の債権者より弁済を受けるという効力(優先弁済的効力)がないので、物の代わりに発生した売買代金や保険金を代わりに得ることや弁済を受ける権能(物上代位)はありません。

 そのため、物を留置することで、心理的に弁済するように動機づけるという効果に限定されています。

 もっとも、動産は、他の債権者が動産を競売しようとしても、留置権者が留置権を行使して引渡しを拒めば強制執行をすることができません(民事執行法124条、同法190条)。

 そのため、強制執行するためには担保されている債権を代位弁済して留置権を消滅させる必要があり、留置物が特に不動産の場合は、他の債権者による差押えや競売の手続は進行するものの、競売によっても留置権は消滅しません(民事執行法59条4項、同法188条)。

 もし、競落した買受人がいる場合は、担保されている債権を弁済しないと留置権は消滅しないということになり、事実上の優先弁済権があることになります。

同時履行の抗弁権とは何か

 契約したお互いの者同士は、双方で相手方へ契約上の義務を果たす必要があります。例えば、売買契約では、物の引渡と引き換えに代金を支払うことになります。

 このような契約のことを民法上は双務契約と言われています。

 双務契約では、一方の契約当事者は、相手方が債務の履行を提供するまでの間は、自らの債務の履行を拒絶できる抗弁権を有します(民法533条)。

 このように、交換的な関係にあるお互いの債務の履行については、履行する上でも密接な関係性を認めることで、契約当事者間の平等を図り、相互の債務の履行を確保する点にこの制度の趣旨があります。

留置権と同時履行の抗弁権の共通点

 いずれの権利も、債務者による債務の履行を確保することを目的として、債務の履行があるまで自己が負担する債務の履行を拒絶することできるという公平のために認められている点が共通しています。

 そのため、債務者が債務を履行した場合には、留置権は附従性により消滅し、同時履行の抗弁権も消滅します。

 訴訟において留置権ないし同時履行の抗弁権を主張した場合には、請求棄却判決ではなく、引換給付判決がされる点も共通します。

 その反面、留置権は担保物権ですが、同時履行の抗弁権は、双務契約の当事者間に認められた権利になります。

 そのため、留置権は、物権の効力によって、第三者に対しても主張することができるため、所有者が債務者以外の者でも、債務者の債務の履行確保のために、その所有者にも留置権を主張することができます。

 他方、同時履行の抗弁権は、双務契約の当事者間に認められた権利にすぎませんから、契約当事者以外の第三者には主張することはできません。

留置権と同時履行の抗弁権の相違点

 留置権は、物を留置する権利であるため、拒絶できる債務の内容は、目的物の引渡義務のみになります。

 同時履行の抗弁権は、双務契約から生じる債務であればその内容を問わないため、引渡義務に限られず、双務契約上の債務であれば、なんでも拒絶することができます。

 可分債務の場合には、その一部の債務が履行されたとしても、留置権の不可分という性質があるので、留置物の全部の引渡を拒絶することができます(民法296条)。

 同時履行の抗弁権は、自分が負担する債務が可分債務であるか否か、信義誠実の原則などにより(最高裁判例:平成9年2月14日)、相手方が債務を履行していない部分に対応する部分のみしか抗弁権を行使した履行の拒絶をすることができないと考えられています。

 留置権には、果実を収穫できる権利(民法297条1項)、競売権(民事執行法195条)や代担保の供与による消滅(民法301条)が定められていますが、同時履行の抗弁権にはこのような規定は存在しません。

まとめ

 留置権と同時履行の抗弁権の共通点と相違点は、留置権は、留置権者の債権の履行確保のための担保とすることを目的としていることであるのに対して、同時履行の抗弁権は、当事者の一方のみが先に履行を強要させられることを避けることが目的です。

 外形上は同じように履行を拒んでいる場合でも、権利自体の法的な違いにより性質に差異はあります。